ある日、電車に乗っていたら、連結部分のドア付近でうずくまる僕と同じぐらいの齢の男がいた。
下を向いてうずくまっていたので、それはまるで僕のひどい時の低血糖発作のときにする格好そのものだ。
電車は混んでいた。その男の周りにいる乗客は、男へ声をかけようとすらしない。僕は少し遠く離れた場所にいたから、声をかけるにもかけられなかった。そのため、男の体調は大丈夫なのか、少し遠目から見守ることにした。
もし、その男が低血糖ならばコーラとかブドウ糖などを口にするだろうと思った。けれども、何か飲むことも食べることもなく、ただただ、しゃがみ込んでいるだけだった。
その男に誰も声をかけないという空間だけが、そこにあった。
そして、この出来事の数週間前には、電車の中でバタンと仰向けに倒れた女性がいた。それも僕の隣で。電車はちょうど駅に停車中で、大丈夫ですか、と僕は女性に声をかけたが返事はなかった。僕は慌てふためいてホームに降りて大声で駅員さんを呼んだ。
電車は一時止まって5、6名の駅員さんがやってきた。その後、女性は目を開けて、ゆっくりと立ち上がり「すいません、すいません」とまるで自分が何か悪いことでもしたように謝りながら、駅員に連れられ電車をあとにする。
何かの病いで倒れたのであれば仕方がないことだ。
僕は、謝る彼女に大丈夫ですよ、と伝えた。
僕も低血糖昏睡を起こして、目が覚めたときにはやたらと鬱っぽい症状に襲われる。まるで、誰かに責め立てられるように、低血糖昏睡になったことを懺悔する。
そんなことを考えながら、電車は少し遅れて発車した。
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