まいにち、まいにち、欠かさず打たねばならぬインスリン。1型糖尿病患者さんであれば「生きるための必要最低条件」であり、2型の糖尿病患者さんでも「インスリン療法」が必要な場合がある。だけど、患者にとっては、この治療は「面倒」なのかもしれない。
インスリンの注射、その先には
注射だけが面倒なのではない。ほかにも面倒なことは沢山ある。いつ襲うか、わからない低血糖や注射をどこで打つか、何単位注射を打ったらいいのか、数えればきりがない。インスリンを打たなくたって、体は痛くならないし、体調だって、そんなに変わらない。1型糖尿病の僕でさえ「面倒なインスリン注射」、そんな嫌気がさした頃にある出来事があった。
インスリンがない・・
それは忘れもしない、1996年、アメリカを旅行中に起こった出来事だった。貧乏旅行で、ロクにお金も持っておらず、しょうがないので、ロサンゼルス近くのモーテルに宿泊した時のことだった。外壁は薄緑のモーテルで、なんとも言い難い気味の悪いモーテルだった。荷物をモーテルに置き、バーガーキングへ買い物をしに行き、モーテルに帰って来た時のことだった。唖然とした。なんと強盗にモーテルの扉が破られていたのだ。インスリンやシリンジの注射器、パスポートが入った旅行カバン、全て盗まれた。
持っていたのはクレジットカードと小銭だけ
翌日、日本へ帰国予定だったので、途方に暮れた。パスポートはなく、インスリンすらない。被害にあった時、警察へ電話したが、現場へ来たのは9時間後だった。領事館へ駆け込んだのだが、すぐに帰国することは出来ないことを知らされた。ここから何日間、インスリンのない生活を送ることになるのか・・恐怖心でいっぱいだった。そして、考えに考え、厳しい食餌療法(カロリー制限)で、この急場を凌ぐしかなかった。1日、500kcal〜700kcalで1週間をしのいだ。そして、帰国できた。
ほぼ何も食べられず、ひもじい1週間だった
日本に帰国して、すぐさまインスリンを打って「てんぷらうどん」を死ぬほど食べた。気が狂うほど嬉しい思いだった。「インスリン注射が面倒」から「有り難いインスリン」へ心が動いた瞬間だった。たしかに、低血糖の恐怖や、打つ場所など悩みも多い「インスリン注射」。だけど、治療上、ベストな選択肢であれば「やらねばなるまい」。この経験は僕に、「インスリン注射」に少しの希望を発見させ、インスリンがあることの素晴らしさに少し感謝させる、そんな経験だった。